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新型コロナ関連情報

レムデシビル

レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬で、新型コロナウイルスの治療薬として有望視されている薬剤の1つです。

 新型コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルス に抗ウイルス活性を示すことが明らかになっており、細胞内で代謝された後ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害することで、増殖を抑制すると考えられています。新型コロナウイルスに対する治療薬として臨床試験が進められ、日本では2020年5月7日に特例承認されました。ただし、レムデシビルの効果については臨床研究で効果がなかったとする研究もあります。これまでのところ(2020.7.22)、科学的に信用度の高い大規模なランダム化比較試験(RCT)は2件行われており、ここではそれら2件の研究概要および結果についてまとめています。



レムデシビル

研究:Beigel, et al. 2020

レムデシビルの投与に効果があった研究です。この大規模RCTの結果によって、日本で新型コロナウイルス治療薬として特例承認されました。

研究方法
研究デザイン二重盲検のランダム化比較試験
実験条件
  • 実験群:レムデシビル(100mg/日、1日目のみ200mg)を2-10日間投与(または退院または死まで)
  • 対照群:プラセボ
総被験者数1063人(実験群541人:対照群522人)、最終有効被験者1059人(データ欠損4人)
平均年齢全体平均58.9歳(SD15.0)
男女比約6対4
人種構成白人53.2%、黒人20.6%、アジア人12.6%、その他0.7%
研究結果
全体回復者数(29日後)
レムデシビル群 334/538人 プラセボ群273/521人
症状程度別回復者数
酸素吸入なし(※医療介入はあり)
レムデシビル群61/67人 プラセボ群47/60人
酸素吸入あり
レムデシビル群177/222人 プラセボ群128/199人
高流量酸素吸入or呼吸補助あり
レムデシビル群47/98人 プラセボ群43/99人
人工呼吸またはECMOあり
レムデシビル群45/125人 プラセボ群51/147人
統計分析
全体結果
OR1.50, 95%CI[1.18?1.91]
症状程度別結果
酸素吸入なしOR1.51, 95%CI[0.76?3.00]
酸素吸入ありOR1.31, 95%CI[0.89?1.92]
高流量酸素吸入or呼吸補助ありOR1.60, 95%CI[0.89?2.86]
人工呼吸またはECMOありOR1.04, 95%CI[0.64?1.68]
考察

レムデシビルの効果(Beigel, et al.より引用)
図1 レムデシビルの効果(Beigel, et al.より引用)
  全体結果としてオッズ比1.50, 95%CI[1.18–1.91]の回復効果が得られています(オッズ比の理解についてはこちら(⇒事典リンク)を参照してください)。「レムデシビル投与群はそうでない群と比較して新型コロナによる症状が回復している」と解釈できる

結果といえます。またこれは、非常に大規模かつ厳密な実験によって得られた結果なので、信用度は高い

といえます。ただし図1に示すように、一部の人種、年齢、地域などでは統計的に意味のある回復効果がみられていないため、やや慎重に解釈すべき点もあります。

研究:Wang, e al. 2020

効果なかったとされる研究結果です。こちらの研究の被験者はアジア人のみであり、実施規模は研究①よりも小規模となっています。

研究方法
研究デザイン二重盲検のランダム化比較試験
実験条件
  • 実験群:レムデシビル(100mg/日、1日目のみ200mg)を2-10日間投与
  • 対照群:プラセボ
総被験者数236人(実験群158人:対照群78人)
平均年齢実験群66.0歳、対照群64.0歳
男女比約6対4
人種構成すべてアジア人
研究結果
回復者数(28日目)
レムデシビル群 103/158人 プラセボ群45/78人
28日目時点データ
退院者数
レムデシビル群92/150人 プラセボ群45/77人
酸素吸入なし
レムデシビル群14/150人 プラセボ群4/77人
酸素吸入あり
レムデシビル群18/150人 プラセボ群13/77人
高流量酸素吸入or呼吸補助あり
レムデシビル群2/150人 プラセボ群2/77人
人工呼吸またはECMOあり
レムデシビル群2/150人 プラセボ群3/77人
死者数
レムデシビル群22/150人 プラセボ群10/77人
統計分析
7日目時点退院者数OR0.69, 95%CI[0.41-1.17]
14日目時点退院者数OR1.25, 95%CI[0.76-2.04]
28日目時点退院者数OR1.15, 95%CI[0.67-1.96]
考察
  先述の研究と異なり、こちらの研究では統計的に意味のある回復傾向は示されませんでした

。この理由は不明で、今後の研究データを待つことになります。たとえば、遺伝子などの影響によって「アジア人には効きにくい」との結論となる可能性もありますが、現在のところは不明です。

ここで、これら2件のデータをメタ分析して統合してみます(図2)。※以降の分析は上記2件の元論文データに基づいたGijika.com独自の分析です。正式な査読を経た論文データではないことを前提としてご覧ください。

図2 レムデシビル効果のメタ分析
図2 レムデシビル効果のメタ分析

 研究を統合したところ、レムデシビルの効果は統計的に意味のある値の範囲に収まりました。Beigelらの研究のほうが被験者数が多いため当然ともいえますが、やはり、一定程度の治療効果は見込まれると思われます。ただし、このメタ分析は両研究のすべての被験者を統合したもので、Wangらの研究で言及した「アジア人には効きにくい」といった傾向が隠れている可能性は依然としてあります。なお、2020年12月1日時点で、Beigelらの研究の最終レポートが出版され、当初よりも限定的な効果であったことが示されています(全体RR:1.29,95%CI[1.12-1.49])。加えて、WHOのレポートではレムデシビル効果に否定的な結果も出ており、今後、国際的に使用法が大きく変わる可能性があるでしょう。

  1. Beigel, et al. (2020): Remdesivir for the Treatment of Covid-19 - Preliminary Report, N Engl J Med. NEJMoa2007764.
  2. Wang, et al. (2020): Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial, Lancet, Vol.395, Issue.10236, pp.1569-1578.