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      生活環境ゲルマニウム

ゲルマニウム

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

         

ゲルマニウム(原子番号 32)は光沢のある銀灰色の半金属であり、亜鉛鉱石などの不純物として産出される元素である。ゲルマニウム化合物は大きく、無機ゲルマニウムと有機ゲルマニウムに分けられる。このうち、ゲルマニウム原子と炭素鎖が共有結合した水溶性のゲルマニウム化合物を有機ゲルマニウムと呼び、1967 年に浅井、及川らによって合成された1

本項目ではこの有機ゲルマニウム、特に「アサイゲルマニウム(レパゲルマニウム)」の経口摂取による人体への健康効果と、ゲルマニウムブレスレットなど外用製品による健康効果言説を対象として評定する。そのため、トランジスタなどに用いられている原子番号32である半導体としてのゲルマニウムの電気物性的有効性については評定対象ではない。また、有機ゲルマニウムのうち、プロパゲルマニウムについては医療用医薬品として承認を受けており(20600AMZ01109000)、HBe抗原陽性B型慢性肝炎におけるウイルスマーカーの改善効果1が確認されている2。そのため、こちらについても評定対象とはしない。

  1. 1:医薬品添付文書に「HBe抗原陽性B型慢性肝炎患者においてプラセボを対照とした二重盲検比較試験の結果、本剤の有用性が認められた」と記載されている(製品名:セロシオン)。

幅広い作用の根幹をなす理論が不十分

理論の論理性 E(低)

有機ゲルマニウムでは、インターフェロン-γ3(INF-γ)誘起活性、免疫調整作用 およびそれに伴う抗腫瘍性、抗ウイルス作用、抗酸化作用、抗炎症作用、血圧降下作用、骨代謝改善作用、鎮痛作用など、かなり広範囲な効果が主張されている345。その作用機序として「有機ゲルマニウムが体内の酸素循環の活性化に寄与し、それによって生命活動が活発になり万病を癒す」などと説明されるが3、これは独自に構築された推論に過ぎない。また、こうした理論的背景に「ルルドの泉伝説」が転用されていたりと345、物語的側面が強いことがうかがえ、広範囲に主張されている効果について「統一的にまとめている理論」が十分でない。以上より、論理性は低いと評価する2

  1. 2:なお、プロパゲルマニウムについては「IL-1、IL-2、IFN-γ産生増強等により細胞障害性T細胞、NK細胞を賦活化し、ウイルス感染細胞を破壊する。また、抗体産生能増強によりウイルス関連抗原の排除を促す。更に、IFN-α/β産生増強により、ウイルスの増殖を抑制する」といった作用機序である[2]

理論の体系性 D(低~中)

日本における有機ゲルマニウムの主要な研究組織である「浅井ゲルマニウム研究所」HPにおいて、たとえば「疼痛作用」「免疫促進作用」「抗炎症作用」「骨代謝への作用」などが解説されている6。これらは個別の仮説としては筋の通った説明にもみえるが、これらの作用を統一的にまとめる全体の理論が不在であることは問題である。非常に広範囲の効果が謳われているにも関わらず、そうした幅広い作用の根本となる理論体系が不明である。たとえば、「マイナスイオン」や「デトックス」「有害電磁波の排出」などのキーワードを用いてこうした幅広い効果を正当化する主張もみられるが5、これらの概念自体、既存の科学理論の体系性とは合致せず、理論の外的補強にまったく寄与しない。

理論の普遍性 E(低)

データの観点等で述べる通り、現状、有機ゲルマニウム理論で謳われる広範囲への効果の主張を裏付ける十分な根拠はないといえる。そのため、理論の普遍性を装っていると判断でき、低評価とする。

ヒトを対象としたデータが不足

データの再現性 E(低)

医学論文の世界的なデータベースであるPubMedおよびCochrane Libraryを調査した限り(検索ワード:Ge-132)、これまで有機ゲルマニウムの健康効果に関するRCTやメタ分析は見当たらなかった(2020.7.19実施)。すべての検索結果としては、PubMedおよびCochrane合わせて112件が該当したが、うちヒトを対象とした研究は6件であり789101112、他の多くはラットなどの動物実験や試験管内での研究であった。プロパゲルマニウムに関する研究も複数該当した(n=5)。ヒトを対象とした6件の研究について対照群をともなった研究は見当たらず、症例報告あるいは一群内の事前―事後比較のみであった。

また、有機ゲルマニウム効果についての主要な研究組織である「浅井ゲルマニウム研究所」のウェブサイト上にて有効性の根拠とされるデータが提示されているが6、やはりその多くは動物実験や試験管等による基礎的研究である。ただし、以下の2報1314においては対照群が設けられた実験的研究が実施されており、特筆事項である(これらは先のデータベースに登録されていない)。

              
表 有機ゲルマニウム効果のヒトを対象とした比較研究
著者出版年研究対象結果
今野ほか 1990 肺がん患者に対する効果二重盲検のランダム化比較試験。ゲルマニウム群(n=154)、対照群(n=157)で肺がん患者の生存期間やQOLなどを評価。全体として、生存期間や自覚症状などには大きな改善効果はみられなかった。
折茂ほか 1983骨粗しょう症に対する効果研究全体としては一群内事前事後比較デザイン。一部、ゲルマニウム群(n=6)と対照群(n=15)との比較によって骨塩含有量に差があったとの結果が記載されている。


研究デザインの観点からすると、今野ほか(1990)は二重盲検法のランダム化比較試験であり、かなり厳密な実験が行われているといえる。しかし結果は芳しくなく、少なくとも有機ゲルマニウムの摂取が肺がん患者の生存期間やQOL向上には寄与しないと解釈せざるを得ないデータである。論文内では小細胞がん例における生存率などわずかに統計的に有意性のあるデータも提示されているが、最終的に分析対象とされたサンプル数が少なく(n=26)、確たる結論を下すことはできないと思われる。少なくとも、「小細胞がん患者に対する効果」の仮説を立てたうえで追試が実施されるべきである。

以上、これらごく少数の実験のみでは、有効性について肯定的に評価することはできない。かなり広範囲にわたって調査したにもかかわらず、比較試験として(それぞれ対象疾患が異なる)かなり古いデータが数報該当しただけというのは問題といえる。

以上の結果から、現状の有機ゲルマニウム研究においてヒトに対して健康効果があるとする信頼できるデータはないと評価する。また、ゲルマニウム由来と思われる被害事例すら報告されているため15、有効性のみならず安全性についても疑問が残る。

データの客観性 E(低)

再現性の項目で述べたように、現状、ヒトに対して有機ゲルマニウムの健康効果を示す信頼できる科学的データはほとんど蓄積されていない。有機ゲルマニウムについては経口摂取、ブレスレット、温浴などによる効果が主張されているが、根拠とされるデータの多くは動物実験あるいは「愛用者による感想」などであるため、客観性は低い。

万能性が裏目に出る

データ収集の理論的妥当性 E(低)

ヒトを対象とした対照群を伴った比較試験がほとんど実施されていないのは致命的である。広範囲に謳われるゲルマニウム効果に対して作用機序が不明瞭であり、妥当なデータが収集される下地がないといえる。

理論によるデータ予測性 E(低)

有機ゲルマニウムではしばしば「万能性」が主張されるが3-5、データ予測が困難になるという点からこうした万能性はむしろ好ましくない。対象者や使用量、使用方法などを特定した形でのデータが蓄積されていない現状では低評価とせざるを得ない。

社会的観点

社会での公共性 D(低~中)

有機ゲルマニウムに関する研究組織として日本では、「浅井ゲルマニウム研究所」が最も大規模であり継続的に活動している。ただしデータの観点で述べたように、ヒトを対象とした比較研究はかなり古いもののみであり、継続して研究が蓄積されているとはいえないのが現状である。その背景には、二酸化ゲルマニウム摂取による過去の事故報告の影響によって、臨床研究が実質的に実施できない業界状況があると推定される16

一方、浅井ゲルマニウム研究所によって、日本健康・栄養食品協会による健康食品の安全性自主点検認証登録制度への申請がなされ、2019年に認証登録されるなどの一定の成果も出ている。こうした成果によって、ヒトを対象とした研究データが収集されていくことが今後望まれる。

議論の歴史性 C(中)

有機ゲルマニウムの元祖である浅井によると、漢方生薬や薬草類に多くのゲルマニウムが含まれていることからゲルマニウムがこれら植物の薬理効果に関係すると推察し13、こうした考えに基づき有機ゲルマニウムの合成の実現および有効性の主張が展開されてきた。また、有機ゲルマニウムを含む栄養補助食品は1970年代に日本で普及し、がんやエイズなどのエリキシル剤として他の国でも普及したとされる15。その間、浅井ゲルマニウム研究所をはじめとして一定の研究データや議論が蓄積されてきたことは評価できる。

しかし、こうした歴史をもちながらゲルマニウム関連学説についての批判的検討が業界団体内部で十分に行われてきたとは言い難く、むしろ行政機関などによって注意喚起がなされている。

社会への応用性E(低)

ヒトに対する有効性を示す信頼できるデータはほとんどないため、現時点でゲルマニウムを利用するメリットは見当たらない。一方、有機ゲルマニウムの経口摂取について基本的には大きな害はないとされ、ラットを始めとした動物試験にて安全性が確認されていると主張されることがある6

しかし、国立健康栄養研究所や国民生活センターなどから使用について注意喚起がなされており、特に国立健康栄養研究所による健康食品の素材情報データベースでは「食品としての経口摂取はおそらく危険である」とすら記載されている17-18。ゲルマニウムの長期摂取によって腎不全、腎機能障害、腎尿細管変性、ゲルマニウム蓄積などの徴候が観察されたとの報告もある15。ただし、公共性で述べた日本健康・栄養食品協会による健康食品の安全性自主点検認証登録制度では第三者機関によって安全性が評価されるため、経口摂取の安全性には一定の評価はできると思われる。

総評 疑似科学

ルマニウム温泉」「ゲルマニウムブレスレット」「ゲルマニウムサプリメント」「ゲルマニウム水」などが人気を博したことにより、日本においてゲルマニウム関連主張の一般認知も高いと思われる。しかし、ヒトに対する健康効果を裏付けるデータは十分でなく、現時点でゲルマニウム関連製品を利用する意義は見いだせない。改善方策として、理論面では万能性の排除や体系的な仮説の提示、データ面ではヒトを対象とした比較試験の集積が必須であり、それらが不足している現状では疑似科学と評価せざるを得ない。見通しは決して明るいとはいえないが、公共性で述べたような業界団体による成果が出ている面もある。

 

参考文献

  1. 島田康弘(2016):「有機ゲルマニウム化合物Ge-132と生体成分との相互作用に関する研究」博士論文,岩手大学大学院
  2. 三和化学研究所(2016):「医療用医薬品:セロシオン」https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00046657
  3. 浅井一彦(1975):『ゲルマニウムと私』玄同社
  4. 志摩春夫(1987):『新・ゲルマニウムで病気を治す』健友館
  5. 石田名香雄・木村郁郎(2001):『有機ゲルマニウムの科学~可能性に満ちた多彩な機能性の全容』東洋医学舎
  6. 浅井ゲルマニウム研究所 n.d.:「アサイゲルマニウムの有用性に関する研究成果の紹介」https://www.asai-ge.co.jp/usefulness/
  7. Masuda, et al. (2020): Phase I dose-escalation trial to repurpose propagermanium, an oral CCL2 inhibitor, in patients with breast cancer, Cancer Sci, Vol.111, No.3, pp.924-931.
  8. Dozono, et al. (1996): Effectiveness of Ge-132 to relieve pain and smooth home care administration for the terminal cancer patient, Gan To Kagaku Ryoho, Vol.23 Suppl.3, pp.291-295.
  9. Long, et al. (1996): Pharmacokinetics of germanium after po beta-carboxyethylgermanium sesquioxide in 24 Chinese volunteers, Zhongguo Yao Li Xue Bao, Vol.17, No.5, pp.415-418.
  10. Prteunai L. and Arimori S. (1992): Decreased plasma superoxide scavenging activity in immunological disorders--carboxyethylgermanium sesquioxide (Ge-132) as a promoter of prednisolone, Biotherapy, Vol.4, No.1, pp.1-8.
  11. Takahashi, et al. (1984): Effects of interferon and its inducers on neutrophil chemiluminescence, Gan To Kagaku Ryoho, Vol.11, No.7, pp.1439-1443.
  12. Tanaka, et al. (1984): Augmentation of NK activity in peripheral blood lymphocytes of cancer patients by intermittent GE-132 administration, Gan To Kagaku Ryoho, Vol.11, No.6, pp.1303-1306.
  13. 今野淳・本宮雅吉・大泉耕太郎・中井祐之・長浜文雄・田辺達三・鈴木 明・中林武仁(1990):「多施設共同研究による有機ゲルマニウム(Ge-l32)の切除不能肺癌に対する二重盲検比較試験の成績」『BIOTHERAPY』,Vol.4,No.5,pp.1053-1063
  14. 折茂肇・秋口格(1983):「老人性骨粗鬆症に対するGe-132の効果について」 『医学と薬学』,Vol.9,No.5,pp.1507-1509
  15. S.H. Tao and P.M. Bolger (1997): Hazard Assessment of Germanium Supplements, REGULATORY TOXICOLOGY AND PHARMACOLOGY, Vol.25, pp.211–219.
  16. Gijika.com n.d.:「ゲルマニウムの部屋」https://gijika.com/park/bbs/room/27
  17. 国立健康栄養研究所 n.d.:「健康食品の素材情報データベース:ゲルマニウム」https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail35.html
  18. 国民生活センター(2009):「国民生活センターにおける商品テスト事業の概要」https://www.cao.go.jp/consumer/doc/091109_shiryou2.pdf

最終更新日: 2020年10月23日