ESP

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

ESP(Extra-Sensory Perception)とは、「超心理学(Parapsychology)」の開祖とされる米デューク大学のJ・B・ライン教授が1930年代に導入した用語で、透視、テレパシー、予知など、通常の物理的な手段を経ない情報伝達現象の総称である。 一般に、「超能力」という語感からは「特定の人」の「超人的な能力」という意味を抽出してしまいがちだが、ESPが対象としているのは「人全般」の「心理現象における特異な現象」のため、その意味で若干趣向が異なることを意識されたい。

ESPという言葉の由来は「通常の感覚器官(Sensory Organs)を経ず(Extra)に外界の現象を知覚すること(Perception)」であり、「超感覚的知覚」などと邦訳されている。本項では、このESPについて評定する。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 D(低~中)

ESP現象全般を過不足なく説明する理論はまだなく、一部の現象を説明する理論がいくつかあるということに留まっている。それらのうち、たとえばPMIR理論など、超心理現象をうまく解釈しているものもある。ただし、ESPに限らず超心理学全般において「変性意識」など未知の心理過程が導入される傾向があり、これは論理的に完備しているとはいえない。

超心理学が扱っているのが既存の心理現象以外の「特異」な部分であるため、どうしてもこの問題に突き当たらざるを得ないと推定される。要するに、確固たる新しい概念として提唱できるほどには理論が仕上がっていないのである。また、理論として既存の現象に対する「解釈」にはなるが、「実験的に予測可能な説明」となっていない点も評価しにくい点である。

理論の体系性 E(低)

ESP現象の定義上、これまでの伝統的な物理学では受け入れられない「時空間を越えた情報伝達」が想定されている。ESP現象がこれまで以上に明らかになり、未知の物理現象との関連が見つかるとか、現在の物理理論の枠内でESPが認められる物理理論の改訂がなされる可能性もなくはないが、現時点では物理学の諸法則に整合的でない。

一方で、「ある特異な心理現象に対して、統計的な手法によって偏りが見られるのならば、それはなぜか?」という、超心理学が持つ素朴な疑問には諸科学分野でも答えが出ておらず(そのようなな「偏り」などないという立場も見られ、論争の種となる)、そういう意味でESP研究が全く荒唐無稽な根拠から出発しているわけではない。

理論の普遍性 E(低)

現在の物理学の諸法則はきわめて普遍的に成立しており、日常的な現象にも広く適用できている。それに対してESP現象は、日常的には起きておらず、特殊な条件下においてのみ発揮されると考えられる。

たとえば、「どのような条件」の「どのような人」においてESP現象が見られるのか、という理論がきちんと構築されていれば物理学との並存も可能だろうが、現在ESP分野にはそうした理論がない。そのため、ESP現象を正当化するには物理学の理論を「拡張する」しかないのだが、前述のとおり物理学の諸法則のほうが遥かに整合的に働くため、ESP理論を積極的に採る理由はないと言える。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 C(中)

ESP実験の代表的なものの一つにガンツフェルト実験がある。これは、被験者の感覚を遮断した状態で行うテレパシー実験であり、これまで高い成果を上げている。30年間の実験報告で効果サイズ0.2が得られており、少なくとも「かなり小さな効果であるが統計的に有意といえる」結果となっている。この点では再現性は高く、分析手法もかなり厳密だと評価できる。

また、分析手法に関しては、ESP現象を疑う研究者らによって発展してきたともいえる。超心理学では歴史的に、ESP肯定の研究報告が出されるたびにそれを疑う科学者らによって非常に厳しい目が注がれる、というサイクルを繰り返してきたが、しかしこれは、こうした動きによって他の学問分野で類を見ないほど厳密な研究手法が開発されてきたとも評しうる。たとえば、まだメタ分析がそれほど一般的でなかったころから超心理学ではこの分析法を採用しており、科学的なデータとして非常に精度の高いものが報告されてきたのである。

 一方で、ESP現象を疑う研究者によって実験を行うと肯定的な結果が得られないという傾向があり、これは看過できない。超心理学ではこれを、「実験者効果」として実験者の信念によって結果が得られなかったと説明しているが、肯定的な結果が出ていないことへの言い訳としても捉えられる。総じて、再現性という意味で「誰が行っても安定した結果が得られる」とまでは言えないだろう。

データの客観性 A (高)

ESP実験のほとんどは、通常の物理的手段による情報伝達は起きないように管理され、無作為化対照実験のかたちで行われている。さらに、実験上の問題点やデータ分析上の指摘に関しては厳密な対応がなされており、客観的データを得るうえでの実験環境整備はきわめて充実している。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 A (高)

今日のESP実験のほとんどは、通常の物理的手段による情報伝達は起きないように管理されている。超感覚的知覚という理論に合致した状態でデータ収集がなされており、妥当性は高い。

理論によるデータ予測性 E(低)

ESP現象が起きる条件の特定が未達成であり、理論に基づく予測がなかなか立てられない。つまり、現象が検出されたらその未知の条件が満足されていた、検出されなかったらその未知の条件が満足されていなかったと説明できてしまう状況にある。これでは実験結果を的確に予測することができない。

また、超心理学に関する多くの理論が、事象の「壮大な解釈」に終始してしまっていることも予測性が低い一因だろう。ESP現象を別次元との交信や霊界とのコンタクトとする向きもあるが、それらは実験的に予測可能な理論とは言えず「科学的理論」の体裁を成していない。むしろ、そうした異世界や霊界を謳う根拠としてESP実験の結果が引用されることもあり、こうした傾向が理論化の進みにくい一つの要因でもあると思われる。

社会的観点

社会での公共性 A (高)

ライン教授が1937年に学術論文誌『Journal of Parapsychology』を発刊して以来、今日までESP研究はこの論文誌を中心にして研究発表がなされている。1957年には、超心理学協会(Parapsychological Association)が結成され、それが1969年には、米国学術振興協会(AAAS)に加盟し、学術研究団体として公式に認められている。
超心理学協会では、世界各地で国際的な年次大会を開催しており、ESP研究の成果は、こうした国際会議の場で批判的な議論が重ねられている。以上の情報は公開されており、他の研究者が吟味したり参入したりすることができる。ESPの科学的研究を推進する社会的仕組みは、他の科学分野と同様によく整備されていると言える。

また、超心理学に否定的な組織や機関がよく機能していることも、逆説的ではあるが公共性を高くする要因である。たとえば米国に本拠を置くサイコップでは超能力者の認定に対してかなり厳しいハードルを設けており、ニセモノが蔓延しにくい構図となっている。

議論の歴史性 A (高)

歴史性は高く評価できる。以下に記述するダイアベルグらの疫学調査をはじめとして、科学的な研究、またはそれにともなう議論が正統的に行われてきたといえる。

超心理学の成果は、上記学術論文誌や、他の関連した論文誌に科学論文として掲載されている。その論文の意義をめぐって懐疑論者との長い議論の歴史がある。1982年には争点をまとめた共同コミュニケも刊行されている。
また、超心理学協会が1970年代から、一見したところ効果が見られない失敗実験でも克明に論文報告するよう奨励したことにより、今日では他の科学分野以上に実験データがオープンにされている。実際のところ、過去の失敗と見られた実験データを集めて分析(メタ分析)することで、後に新たな知見が得られたこともある。

社会への応用性 E(低)

ESPの能力があると商売にしている人がいるとすれば実用性を偽っている可能性が高い。というのは、超心理学の学術研究の成果によればESPがあるとしても、その効果の大きさはかなり低く、実用に供するには足りない。つまり、ESPの結果が得られたり告げられたりしたとしても、それらは間違っていることのほうが現状では多い。近い将来にも「使えるレベル」に至る見込みはまだない。

総評 未科学

ESPの研究は、方法論として科学的なアプローチがとられている。しかし、いまだデータが十分でなく、一部に信頼できる肯定的データが検出できているとしても、その結果を詳細な理論構築につなげるのが難しい段階にある。
また、たとえば「実験者の超心理的作用が実験結果に影響を及ぼす」といった「超心理的実験者効果(通常の実験者効果とは区別される)」など、アド・ホックな解釈となっている面も見られる。仮に「超心理的実験者効果」を採用すると、「超心理学者は超心理現象を前提として論じている」という批判をかわせなくなり、議論の前提が崩れてしまうのである。

将来的に科学となる可能性が全くないとはいえないが、現時点で一般社会に応用できる知見がほとんどないので、むやみにESPを論じたり現象を信じたりするのは危険である。

関連文献

  1. ディーン・ラディン『量子の宇宙でからみあう心たち~超能力研究最前線』徳間書店2007
  2. 石川幹人『超心理学~封印された超常現象の科学』紀伊國屋書店2012
  3. 石川幹人『超常現象を本気で科学する』新潮社2014
  4. ステイシー・ホーン『超常現象を科学にした男~J・B・ラインの挑戦』紀伊國屋書店2011