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コラーゲン

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

コラーゲンとはタンパク質の一種であり、骨、軟骨、皮膚、角膜など体内の多くの部位に分布している。ヒトの体内に存在しているコラーゲンの総量は、全タンパク質の約30%(皮膚40%、骨・軟骨10~20%、血管7~8%と人体の部位によって割合は異なる)を占めるといわれており、特に皮膚や骨・軟骨などの主成分として繊維構造をつくり組織の構造や柔軟性を保つ役割を担っている。多くのタンパク質は細胞中で特定の機能を果たしているが、コラーゲンは細胞の外に繊維状に存在し、細胞と細胞のすきまを埋める役目を主に負っている。

コラーゲンの特徴として、アミノ酸配列であるアミノ酸X-アミノ酸Y-グリシン(Gly)が繰り返され、その3本がらせん状に合わさった分子構造(3重らせん構造)であること、分子量が約30万と非常に大きな高分子であることが挙げられる。また、ヒドロキシプロリンという非必須アミノ酸が多く含まれていることも特徴であり、コラーゲンの目印として利用されている。

近年、こうしたコラーゲンを利用した健康効果の主張が見受けられる。たとえば、いわゆる健康食品(サプリメントや機能性表示食品など)としてコラーゲンを多く摂取することや、美容効果を謳いコラーゲン含有の化粧品を使用するといったものである。期待される健康効果として、肌がプルプルになるといった美肌効果や骨・関節への影響や紫外線障害抑制といった具合に幅広い分野に及ぶ。

本項目では、以上のようなコラーゲンにおける人体への健康有効性について評定する。
ただし、本項目ではいわゆる健康食品としてなどの経口摂取におけるコラーゲンの効果を評定の対象とし、外用のものについては基本的に対象としない。美容効果を謳う化粧品等には多少言及するが、評定の基準としては経口摂取における健康効果に主眼を置く。また、本評定にあたっては、部分的にコラーゲンとコラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)を区別する。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 D(低)~(中)

「コラーゲン」と「コラーゲンペプチド」では理論が異なるため、両者を区別しつつ評定する。

・コラーゲン……経口摂取におけるコラーゲン効果として提示されているのは、体内のコラーゲンは加齢とともに変質し、生成量も減ってしまうので、それを補うためにサプリメントなどで外から多く摂取すればよい、といったものである。
確かに、年齢によってコラーゲンの生成量が減ることはよく知られており、それが身体の不調を引き起こしているという理論にもそれほど無理はない。しかし、消化吸収の観点から疑問が残る。

コラーゲンをはじめ、タンパク質を食べると胃や腸の中で分解され、アミノ酸(もしくはごく短いペプチド)の形で吸収されるのが普通である。アミノ酸は体内の色々な部位に運ばれ、そこでタンパク質として再合成される。コラーゲンを食べたからといって、それが体の中にそのままの形で運ばれ、機能するということではないのである。
また、食べたコラーゲンがアミノ酸に分解され、そのアミノ酸が体内でのコラーゲン生成に役立つのではないかという説も推測に近い。高分子であるコラーゲンは一般的に水に溶けにくく吸収性も悪いため、サプリメントなどで取り入れたコラーゲンが体内でまたコラーゲンに再合成されるという理論は、論理性が高いとはいえない。

・コラーゲンペプチド……次に、コラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)について述べる。
前述のように、高分子であるコラーゲンは消化吸収性が悪いため、体内においてコラーゲンを再合成する役には立たないとの指摘がある12。では、コラーゲンをゼラチンに加水分解し、それをさらに酵素分解したコラーゲンペプチド(分子量が少ないということ)であるならば、吸収力も高くなり、体内でのコラーゲン生成にも役立つのではないか、というのがコラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)の理論である。つまり、コラーゲンペプチドの形で経口摂取すれば健康効果が期待できる、といったものである。また、体の中に運ばれたコラーゲンペプチドが細胞に対して何らかの「シグナル」を送っており、それが細胞を活性化させているのではないか、といった説も提案されている3

この「シグナル」説はかなりユニークな仮説であり、コラーゲンと比べるとコラーゲンペプチドの方が理論的な説明としても整っている。まだ不明瞭なことは多いものの今後の発展性がうかがえる。
全体を総合して論理性は(低)~(中)評価とするが、ペプチド説には期待が高い。

理論の体系性 C(中)

コラーゲン効果は他の学術分野と決定的に相いれないものともいえないが、それを選択する必然性がないことが問題となる。コラーゲン構築にはビタミンCが深くかかわっており、「コラーゲンを摂る」ことを対抗理論として採用する意義は薄いようである。

コラーゲンは3重のらせん構造をしており、ビタミンCはその構造を保つ働きをする酵素を助ける補因子として作用している4。コラーゲン分子が規則的な3重らせん構造を形成するためにはアミノ酸(プロリンやリシン)に水酸基(-OH)がそれぞれ一つずつ付加されなければならず、その規則性が失われると結果的に弾力性や強度のあるコラーゲン繊維が構築できなくなってしまう。ビタミンCは水酸基を付加する酵素を補助しているため、良質なコラーゲンの形成につながっている。
つまり、ビタミンCを摂取する方が体内での良質なコラーゲン形成には期待が高く、わざわざサプリメントなどでコラーゲンを経口摂取する意義があるのかという疑問が残るのである。

摂取量という観点からもビタミンCに分がありそうだ。コラーゲンは確かに体内に大量に存在するタンパク質であるが、同時に入れ替わり(分解から再合成まで)が非常に遅いことも知られている。具体的には、ヒト体内では1日に200~300グラムのタンパク質が分解されるが、コラーゲンはその内の1~2グラムに過ぎない。体内のタンパク質やアミノ酸の流れからすると、コラーゲン合成のために特別にコラーゲンを摂取するという優先順位は低いだろう。
これに由来してか、コラーゲンの経口摂取の目安は1日5グラム程度とされているが、その根拠は希薄である。対してビタミンCはヒト体内での需要も高く、その摂取量についても疫学的研究に照らし合わせながら、必要量、奨励量、目安量と策定されている(たとえば、12歳以上の必要量は1日85ミリグラムである)5

理論の普遍性 E(低)

現状では効果があると示された臨床データでも、それに寄与する条件が確定されておらず、効果も限定的である場合が多い。たとえば、「プロリンの摂取不足の人がコラーゲン不足になりやすく、それらの人は低分子コラーゲンを飲むことで効果がある」などの研究がされれば効果範囲を特定できるが、現段階では普遍性は低評価とする。

   また、コラーゲンの種類も問題である。コラーゲンにはⅠ型、Ⅱ型といった具合に合計29種類の分子種があり、それぞれ体内での分布が異なっている6。たとえば皮膚や骨にはⅠ型が多く含まれ、角膜にはⅤ型が分布されているが、それらを一緒くたにすることによって普遍性を広く装えることは疑問視される。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 E(低)

コラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)研究への期待は高い。たとえば、コラーゲンを摂取するとプロリルヒドロキシプロリンやヒドロキシプロリルグリシンといったアミノ酸が2つ繋がったコラーゲン特有のペプチドが特異的に増加するという報告がある7。コラーゲンペプチドの「シグナル」説を示唆した研究であり、注目される研究の一つである。

ただし、これは基礎的研究であり、健康効果と直接的に結び付けるのは時期尚早であるため今後の研究が待たれる。また、いわゆる健康食品業界では主観的な感想に依存した効果の主張がみられるが、国立健康栄養研究所によって、ヒトを対象としたデータがまとめられている1。PubMedを用いて調査したところ、(サプリメントなどの形式によって)コラーゲンを摂取することの効果を検証しているメタ分析はみつからなかった(2018年7月6日時点)。全般として再現性が高いとはいえない。

  1. 1:国立健康栄養研究所「健康食品の素材情報データベース」に詳しい。

データの客観性 D(低)~(中)

たとえば、コラーゲンサプリメントの解説書には、あたかも確実な効果が研究によって実証されたかのように表現されているものもあるが、業界団体主導で行われている研究であったり、基礎的研究の成果を臨床応用と同一的にみなしているなどの問題がある。
こうした傾向によって良心的な研究の可能性を摘んでしまう危険がある。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 D (低)~(中)

美肌効果や健康効果について収集すべきデータは明瞭であるが、多くは主観的な報告に頼っている。ただし、プラシーボ効果の排除や二重盲検法を用いているなど、肯定的にとらえることができる研究もある。依然として、(特に商品の販売元では)疑問の残る主張も見られ、研究の質という意味ではばらつきがある。2018年7月6日時点、調べたなかでメタ分析研究は刊行されておらず、これは課題である。

理論によるデータ予測性 E(低)

コラーゲンをどのような状態の人がどの程度経口摂取すると、どの程度の改善が得られるかといった理論は確立していない。ただし、コラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)研究では基礎的研究として予測性の高い実験が行われている。
主張全般として、データを収集してみたら成果が得られたといった探索的な意味合いが強く、理論面が追いついていないことがうかがえる。予測性が高いとはいえない。

社会的観点

社会での公共性 D(低)~(中)

コラーゲン研究については商品販売を目的とするような業者が目立っており、公的機関が警鐘を鳴らしている実態がある。たとえば、日本では「国立健康・栄養研究所」、海外では「FDA(アメリカ食品医薬品局)」や「WHO」などがその主要な役目を果たしている8。コラーゲンペプチド研究など先進的な試みも進行中であるため、サプリメント業界と密になりすぎない関係が望まれる。

議論の歴史性 C(中)

コラーゲン自体の本格的な研究は、1960年代になってタンパク質の生合成のメカニズムの基本が明らかになったことにより始まった。しかし、コラーゲンに特有のヒドロキシプロリンというアミノ酸については、その20年ほど前から注目され研究が進められており、それが今日のコラーゲン研究の礎となったといってもよい2。この段階では、生化学の問題としてコラーゲン研究が行われており、経口摂取による健康有効性は特に謳われていなかった。

健康効果としてコラーゲンが注目されるようになったのは1990年代に入ってからであるが、食品や美容品としてのコラーゲン効果には初めから懐疑的な意見が多く、むしろこれまでコラーゲン研究に従事していた研究者の方が積極的に疑問視していた3ことは議論の歴史性という意味で特筆すべきである。

  1. 2:藤本大三郎『コラーゲン物語』東京化学同人2012に詳しい。
  2. 3:たとえば大崎茂芳『コラーゲンの話~健康と美をまもる高分子』中央公論新社2007;田村忠司『サプリメントの正体』東洋経済新報社2013など。

社会への応用性 E(低)

コラーゲンを含むいわゆる健康食品(サプリメント、機能性表示食品)については、特に広告などの販促行為からその応用性が損なわれているという面が強いように思われる。
たとえば、コラーゲンの広告でよく見かける「翌日に肌がプルプル!」といったものがある。しかし、仮にコラーゲンに美肌効果があったとしても、肌は1ヶ月かけてターンオーバーするため、翌日に実感できる効果が表れることは考えにくい。コラーゲンの健康主張が、かえってコラーゲンに対する認識や研究可能性に対する誤解を深めていることが推察される。

コラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)研究に関しては過度な効果の主張はそれほど見られず、今後の研究発展性に期待できるが、販売元である業者がそうした成果を見切り発車して社会に送り出している感があり、商品の効能を誇大表示したまま販売されているものが多いように思われる

総評 疑似科学~未科学

数多くあるサプリメント成分の代表格としてコラーゲンが挙げられることが多い。経口摂取におけるコラーゲンの健康有効性については疑いが残るものの、データも提示されている。しかし理論面に関してはほとんど整備されておらず、その効果についても、過去にはむしろコラーゲン研究者の方が懐疑的だったことは、いわゆる健康食品の言説において珍しいことといえるだろう。

サプリメントや機能性表示食品などにおいて、消費者は費用対効果(期待される効果に対する対価)を常に念頭に置かねばならず、そういう意味で現在社会にて応用されているコラーゲン製品の多くには批判的にならざるを得ない。
しかし、研究面においてコラーゲンに全くその価値がないわけではなく、むしろコラーゲンペプチドを始めとして基礎研究としてはしっかりと考察されており、今後の研究可能性にも期待が持てる。時期尚早という意味で、現状のコラーゲン健康効果の主張はもったいない例といえる。一方で、現時点ではヒトへの健康効果についての研究データは明らかに不足しており、質の高いデータの収集が今後望まれる。

 

参考文献/論文

  1. 藤本大三郎『コラーゲンの秘密に迫る~食品・化粧品からバイオマテリアルまで』裳華房1998
  2. 大崎茂芳『コラーゲンの話~健康と美をまもる高分子』中央公論新社2007
  3. 日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合PR委員会 技術委員会(合同委員会)/監修『コラーゲンからコラーゲンペプチドへ』2014
  4. 石神昭人『ビタミンCの事典』東京堂出版2011
  5. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2010年版)」
  6. 林利彦『人の体は再合できるか~コラーゲンからさぐる細胞の設計・組立のメカニズム』マグロウヒル出版1991
  7. Iwai et al. Identification of food-derived collagen peptides in human blood after oral ingestion of gelatin hydrolysates. J. Agric. Food Chem., 2005
  8. 国立健康栄養研究所「コラーゲンって本当に効果があるの?」
  9. ベン・ゴールドエイカー『デタラメ健康科学~代替療法・製薬産業・メディアのウソ』河出書房新社2011
  10. DHC医薬食品相談部編集『EBMサプリメント事典~科学的根拠に基づく適正使用指針』医学出版社2009
  11. 藤本大三郎『コラーゲン』共立出版1994
  12. 三好基晴『「健康食」はウソだらけ』祥伝社2015