EM菌

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

EM菌の実体を明確に定義するのは難しい。たとえば、光合成細菌群、酵母菌群、乳酸菌群、発酵系の糸状菌群、グラム陽性の放線菌群などの集まりと説明されているものもあれば、初期理論では好気性芽胞菌バシラス(Bacillus)や嫌気芽胞菌クロストリジウム(Clostridium)が加わっていたこともあるからである。12

また、概念の意味も不明瞭である。たとえば、中心的な研究者である比嘉氏は『有用微生物の定義も使用目的によって大幅に異なってくるが、食料や環境および生命に関わる観点から考えれば、「安全性」がもっとも重要なチェックポイントである。当初は効果的にみえても、時間の経過とともに副作用が現れたり、環境に悪影響を及ぼすことになれば 結果的には有害微生物である』と述べており、実態がよくわからない3

以上のように、EM菌が何を意味しているのかを厳格化するのは困難である。ただし、EM研究の第一人者である比嘉氏は、EM菌には次の共通項が見られるとしている。

  • 有用発酵菌グループおよび有用合成菌グループであり、嫌気性および好気性の微生物など種々の性質の異なる微生物が共存している。
  • この微生物は栄養条件等が整えば、pH3.5以下でも生存する力がある。
  • πウォーターなどの活性水を使用しても増殖することが可能である。
  • 嫌気的な条件下では、摂氏100度以上の高温に耐えるもの(光合成細菌等)がある。
  • 「抗酸化作用」「抗酸化波動」などの性質をもつものである。
  • 農業、環境、健康、食品加工、化学合成、工業、エネルギー、土木建築など広範囲で応用可能であり、従来の微生物関連資材の常識をはるかに超えたものである。

EM菌は農業用の土壌改善のために開発されたとみられるが、近年では環境浄化、ニオイ対策、生ゴミ処理、建築部材の強化、放射性物質の除去、医学的治療効果、健康増進などさまざまな効果をもつと主張されている。また、EMセラミックやEM‐X、EMボカシなど様々な技術的応用がなされている。本項では、EM菌関連言説について評定する。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 E(低)

EM菌は理論的な支えを抗酸化力に頼っている面もあるが、たとえば「抗酸化波動」など、何を意味しているかわからない概念もみられ、理論全般に疑問がある。また、自然界の方向性を決定する要因として「蘇生と崩壊」を挙げ、これらは生物体や反応場において生じる抗酸化力の水準によって決定されるとしているが、「崩壊」や「蘇生」が具体的にどういうものなのか、そもそも「自然界の方向性」とは何であるのかという合理的な説明はない。

EMの作用機序に関しては中心的な研究者である比嘉氏自身も、「組み合わせの妙」と語っており4 、理論的な根拠に乏しい主張であることがうかがえる。

理論の体系性 E(低)

EM菌の効果主張の範囲は多領域に及んでいる。ここでは、EM菌の「農業」「環境」「医療」「微生物利用」という4観点から評価する。

農業……EM菌が農業において特にどのような効果があるのか、その実態は今一つはっきりしない。よく見受けられるのは「害虫に強い食物が育成される」「栄養が豊富になり収穫量が増える」といった主張である5。EM菌の説明によると、それらはEMの抗酸化力による作用であるとしているが、EMに本当に抗酸化力があるのか、そしてそれがどのように作用して農業効果が得られているのかについての合理的な説明はない。
また、微生物の農業利用については古くからおこなわれており、たとえばBT剤(バシラス・チューリンゲンシス)といった蝶、蛾、コガネムシ、蚊などに対して「のみ」毒性をもつ微生物農薬1が広く用いられている。
「従来の微生物関連資材の常識をはるかに超えたものである」という主張に裏付けの取れないEM菌は、対抗理論として魅力的ではないといえる。

環境……EM菌の利用によって生ゴミのニオイを消したり、汚れをおとしやすくしたりする効果はあると思われる。微生物資材として微生物による有機物の分解や、酸性液による汚れの分解といった効果が期待できるためである。
また、水の浄化や土壌汚染の回復などの効果も謳われているが、それらについては、バイオコンバージョン(生ごみの肥料化)やバイオレメディエーション(土壌汚染の修復2) 、バクテリアリーチング(有害金属を無害化)などが既に提案されており研究も盛んに行われている6 。さらに、ダイオキシンの除去効果も主張されているが、キノコの一種である白色腐朽菌にダイオキシンを分解する作用があることは微生物学分野で既によく知られているため、(整合的ではあるものの)EM菌を採用する積極的な理由とはならない。
既に蓄積されている微生物学的知見の方がEM菌による主張よりも整合性が高く、あえてEM菌に頼るほどの魅力はないといえる。また、コンクリートの強化や放射性物質の除去に効果的であるとの主張は科学的知見と全く整合的ではない。

医療……EM菌では癌への治療効果、パーキンソン病やアトピー疾患に対する治療効果が主張されている。ここではパーキンソン病を例に挙げて評価を行う。
パーキンソン病とは、脳内のドーパミン不足により「四肢の痙攣」「体に力がはいらない」「意志とは関係なく体が震える」などの症状がでる疾患である。これまでに多くの研究が行われているものの、発症原因についてまだ統一した見解には至っていない。
EM菌の主張によると、EMのもつ抗酸化力がヒト体内の免疫力を高め、それによってパーキンソン病に対する治療効果、予防効果があるとしている。たとえば、EM‐XなどのEM関連製品を飲むと身体の抗酸化機能が強化され、その結果病気が治るといった具合である。しかし、少なくともパーキンソン病に関しては、これだけでは治療効果の説明にならない。
パーキンソン病の基本病態は中脳の黒質でつくられるドーパミン不足であり、医学的には神経内科に分類される疾患である3。神経伝達物質に関与する疾患であり、病態として「身体の酸化」は直接的には関与しない。少なくとも治療に関して、パーキンソン病とEMで謳われている「抗酸化作用」はほとんど関係がないと考えるのが自然であり、仮に身体の抗酸化力が高まったとしても、パーキンソン病が完治する(治療効果がある)とは考えにくい。
パーキンソンの発病に関してのみいえば「ミトコンドリア障害」という説が有力視されてはいる78 。これは、活性酸素の過剰発生が発病原因となるのではないかという説であり、そういう意味では抗酸化作用による健康効果もいくらか期待できるかもしれない。しかし、その場合でもやはり治療に直接的に作用するとは考えにくい。
EMの医療効果については治療・予防を抗酸化作用に依存しているが、それだけでは説明しにくい各病態に関する詳細な理論がないのが実態である。
微生物利用……「好気性微生物」と「嫌気性微生物」は全く性質の異なるものであり、これらが共存できるとするEM菌の主張はこれまでの微生物学の知見と接続性が悪いという指摘がすでにある。

EM菌の主張は総じて整合性が高くなく、また、あえてEM菌を採用する理由もないと評価する。

 
  1. 1:微生物農薬の中で最も利用されているのは1901年に石渡繁胤によって発見されたカイコ卒倒病原菌(Bacillus thuringiensis)であり、これを用いたものをBT剤という。また、他の微生物農薬として、カの幼虫などに有効なもの(Bacillus sphaericus)やコガネムシなどに有効なもの(Bacillus papillae)、マツクロホシバチやコナガ、タイワンカブトムシに有効なもの(Baculovirus)がある。
  2. 2:1950年代から研究開発されているが、日本ではまだ実験段階にある。
  3. 3:治療方法は様々であるが薬物治療では主にL‐ドパ(エルドパ)などの、簡単に言うとドーパミン補充の薬を長期間服用することが一般的であり、現在までのところ完全に根治する方法は見つかっていない。

理論の普遍性 E(低)

EM菌の主張によると、かなり広い普遍性があることになる。単なる農業利用にとどまらず、環境、工業、医療など幅広い分野に応用可能だとしており、現に応用されている。
しかし、微生物の働きで説明のつかないものについては、EMの「波動」の効果やEMによる「結界(場)」の効果と説明しており、その場しのぎによるものであることが見受けられる。しかもここで言う「波動」とは、物理学用語で用いられる波動とは異なり、独自の機器(MRAクラシック4やLFTなど)にて測定した「波動」である 。
こうした機器が実際何を測定しているかは(少なくとも物理学的には)不明であり、ゆえにEM菌が主張する普遍性の広さも疑問である。

 
  1. 4:『水からの伝言』などでよく知られている株式会社I.H.Mによって販売されている機器である。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 E(低)

国内外において、EM菌による効果を検証する研究は行われており、効果は最大でも他の農業用微生物資材と同程度という結果となっている 7。EMの主張によく見られる多様な分野への効果(医療応用や放射線除去効果)は、これまでのところ確認できない。

データの客観性 E(低)

EM効果に関するデータは、開発および販売元が検証に関して消極的なことが原因で、客観的な研究体制が整っていない。また、効果を主張する際の根拠の多くは中心的研究者である比嘉氏の書籍などで描かれた記述を基にしており、厳密に管理されたデータとは言い難い。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 E(低)

たとえばEMによる農業効果では、前述の波動測定装置(MRA=共鳴磁場分析器)といった正体不明のデータを担保にしており、妥当性を高く評価できない。医療効果については臨床事例の逸話が報告されているのみであり、そもそも医学的効果を検証するための手続きを踏襲していない5
本当にEMによる効果なのかどうか、たとえば顕微鏡によって視覚的に確かめられているわけではなく、妥当なデータが収集されているとはいえない。

 
  1. 5:この点について比嘉氏は、「EM‐X(EMによる医療効果が謳われている製品)そのものに薬理効果はない」と弁明している。

理論によるデータ予測性 E(低)

主張されているEMの効果は絶大であるため、主張が正しいのであれば容易に観測可能な結果が得られるはずである。しかし、EMの劇的効果がきちんと検証されているとは言い難く、EMの効果が本当だとした場合の予測は繰返し外れている。

社会的観点

社会での公共性 E(低)

EM菌の提唱者であり主要な研究者でもある比嘉照夫氏は、EM菌の効果について外部での研究を認めないとする発言を行っている。EM菌における批判的研究を、比嘉氏自身のホームグラウンドでもある「EM研究機構」の同意なしに行うことは認めておらず、また、そもそもEM菌は批判的科学研究の対象ではない、という姿勢すら示している。6
肯定派のみの狭いコミュニティによって研究活動が推進されており、公共的であるとはいえない。

 
  1. 6:EM環境マガジン「朝日新聞の見当違いのEM報道

議論の歴史性 E(低)

EM菌の主張は、肯定派による閉鎖的なコミュニティ内でのみ活発な議論がなされているようである。たとえば、「日本土壌肥料学会」はEM菌に対して否定的な立場をとっており、EM菌の効果に対して批判を投げかけている7。一方、EM側の反論ではEM菌の有効性に関する議論よりも、学会などの体制批判が主旨となっている8
EMの主張は、「日本土壌肥料学会などのあり方に関する議論」ではあっても、「EM菌の効果に関する議論」ではなく、科学的な議論がされているとはいえないと評価する。

 
  1. 7:1996年の公開シンポジウムにて。

社会への応用性 E(低)

たとえばEM菌による効果を狭義の範囲(生ごみの臭い消しなど)にのみ主張するのであれば、単なる“ブランド名”や“商標”といった枠組みに収まる可能性もある。
しかしEMの積極的な推進派には、この世界の問題すべてをEM菌によって解決できるとするかのような主張がみられ、社会的な試みとして「危うい」といえる。「EM菌は神様」「善悪はEM菌によって説明できる」といった“信仰”と表現しうる主張が随所に見られ、個人の道徳性に訴えかけた形のコミュニティ拡大がみられる。
EM言説には単なる営利的な目的ではなく倫理や道徳性を強調している面があり、しかも「科学・技術の知見」を装って応用されているため、根が深い問題であると思われる。

総評 疑似科学

世界の全ての問題がEM菌によって解決されるとは考え難く、効果としては身近にある極めて狭義の範囲がせいぜいだろう。また、数少ない効果は特にEM菌に限った作用ではなく、しかも他の突拍子もない効果を肯定するわけではないことにも注意が必要である。
EM言説において最も危惧すべき点は、多くのEM肯定者が道徳的に“善”であるという信念に基づいて行動していることにある。随所に見られる「共存共栄」というキャッチコピーが人々の道徳心に働きかけ、それが支持基盤を築くに至った要因であると考察できる。

疑似科学であると評するが、本項における「疑似科学」はたとえばサプリメントにおける疑似科学性とは少し性質や意味の違う「宗教的なもの」であることを強調したい。

 

参考文献

  1. 比嘉照夫『微生物の農業利用と環境保全~発酵合成型の土と作物生産』農山漁村文化協会1991
  2. サンマーク出版編集部『比嘉照夫のすべて』サンマーク出版1998
  3. 比嘉照夫/総監修『人・くらし・生命が変わるEM環境革命~EM情報大百科』綜合ユニコム1994
  4. 比嘉照夫『地球を救う大変革~食糧・環境・医療の問題がこれで解決する』サンマーク出版1993
  5. たとえば、比嘉照夫『EM産業革命~農業が活きる・工業が変わる・環境が蘇る』綜合ユニコム1995など
  6. 『浜本哲郎、浜本牧子『Q&Aで学ぶやさしい微生物学』講談社2007
  7. 森秀生『パーキンソン病ファミリーブック』日本評論社2008
  8. 村田美穂/監修『スーパー図解パーキンソン病』法研2014
  9. 後藤逸男「微生物資材の土壌肥料学的評価」『土と微生物(53)』1999
  10. サンマーク出版編集部『比嘉照夫のすべて』サンマーク出版1998
  11. 扇元敬司『バイオのための基礎微生物学』講談社2002
  12. 中村和憲『環境と微生物~環境浄化と微生物生存のメカニズム』産業図書1998
  13. 菊池慎太郎、高見澤一裕、張?喆『微生物の科学と応用』三共出版2012
  14. 比嘉照夫『新・地球を救う大変革』サンマーク出版2012