menu

新型コロナ関連情報

マスクによる新型コロナ予防効果

「マスクが新型コロナ“感染予防”にどの程度有効であるか」については、さまざまな議論が行われています。さまざまな感染症においてマスク着用は、明らかな症状のある感染者のせき・くしゃみなどによる飛沫拡散防止に高い効果をあげることが知られています。一方従来より、非感染者のマスク着用がインフルエンザなどの予防に効果的であるかには懐疑的な面があり、これまでの主要な研究のレビューでも効果があるとする研究(Chu, et al. 2020)とないとする研究(Chou, et al. 2020)が混在している状況です。

 マスク効果の研究については動物による比較実験(Chan, et al. 2020)やシミュレーション研究など(参考リンク:20200824tsubokura.pdf (riken.jp))で有効性が示唆されています。ヒトを対象とした研究では、マスク着用によって美容室内での感染が防がれた、とする症例研究などが出されています。これらの研究は基本的には「ある限定的な実験空間において、すでに新型コロナに感染している感染者から出される飛沫を防ぐことによって、非感染者が新規に感染する可能性を低減させる」という理論に基づく研究成果といえます。

 一方、広範囲な現実環境における非感染者の予防効果についてのRCT(ランダム化比較試験)やメタ分析において、マスク効果に否定的な研究もあり(たとえばBundgaard, et al 2020)、これは、科学的な方法論におけるシミュレーション(≒理論的メカニズムによる想定)とエビデンスの間に広がる差異の大きさに関して一石を投じているといえるかもしれません。つまり、研究データの暫定性などの理由により、現実の社会環境(人間の行動や習慣なども含む)の複雑さを捉え切れていない可能性、あるいは現在の科学の限界を示す一つの事例といえるかもしれません。


補足情報

図1 マスク効果のメタ分析
図1  https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.30.20047217v2より引用



 新型コロナ以外の感染症(たとえばインフルエンザ)に関するこれまでの主要な研究知見(メタ分析)を補足としてまとめます。まず上のメタ分析(査読前論文)では、これまでのRCTのデータを統合していますが、マスクとマスクなしで統計的に意味のあるリスク軽減効果は得られませんでした(RR0.93, 95%CI[0.83-1.05]図1)。

 一方、別の研究(Liang, et al. 2020)におけるメタ分析では、マスク着用にはインフルエンザなどの感染症リスクを軽減する一定の効果量があったとされています(OR0.35,95%CI[0.24-0.51]下図2)。ただし、統合対象のうちcase-controlデザインはRCTに比べて因果推定が「弱く」、一般的に「リコールバイアス」などのいくつかのバイアス介在の可能性が懸念されます。

 マスク効果に関するRCTの実施が困難であることが大きな問題といえるかもしれません。過去の新型インフルエンザ流行時においてRCTデータの蓄積の必要性が説かれたものの、実際に実施されているRCTはわずかのようです(Jefferson et al. 2011)。



図2 マスクのメタ分析2
図2 Liang, et al. 2020より引用

  1. H. Bundgaard (2020): Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask WearersFREE A Randomized Controlled Trial, Annals of Internal Medicine.
  2. Chan,et al. (2020): Surgical Mask Partition Reduces the Risk of Noncontact Transmission in a Golden Syrian Hamster Model for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19), Clinical Infectious Diseases, 71, 16, 2139–2149.
  3. Chu, et al. (2020): Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis, Lancet, 395, 1973–1987.
  4. Chou, et al. (2020): Masks for Prevention of Respiratory Virus Infections, Including SARS-CoV-2, in Health Care and Community Settings A Living Rapid Review, Annals of Internal Medicine REVIEW.
  5. Jefferson et al. (2011): Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses (Review), Cochrane Database of Systematic Reviews, CD006207.
  6. M. Liang, et al. (2020): Efficacy of face mask in preventing respiratory virus transmission: A systematic review and meta-analysis, Travel Medicine and Infectious Disease