新型コロナ関連情報
5G拡散説と電磁波不安
次世代通信規格5Gによって新型コロナウイルスが拡散されたり、個人の免疫力が低下することを示す科学的知見はありません。本ページのより詳細な内容については、電磁波有害説ページをご覧ください。
新型コロナウイルスに関連したさまざまな説が世界的に広まりました。そのなかで、新型コロナと「次世代通信規格5G」との関連を疑う説が問題となりました。より具体的には、「次世代通信規格5Gの電波によって、新型コロナウイルスが拡散される」「5Gが免疫系を阻害する」などの説が広まりました。
新型コロナと5Gに関する説には科学的根拠がなく、明確に誤りですが、海外では基地局の襲撃といった事件に発展しているようです。また、こうした状況に対して、WHOによって注意喚起がなされています(図1)。5G拡散説は、新型コロナに関する他の誤った情報(たとえば「コロナ」と「ショウガ」)とは異なったパターンによって拡散されているため、これを「5Gなどの電磁波に対する一般市民の理解が十分でないため」とみる向きもあります[1]。
また山本・後藤(2020)による調査では[2]、5G拡散説に対する主観的な評価について、陰謀論的信念傾向および科学知識が一定の関連性を有するとの結果でした(これは、電気通信普及財団2019年度研究調査助成を受けて実施しました)。
このページでは、5G拡散説の背景としての電磁波に対する健康影響の不安について、これまでの科学的知見に基づき簡単に解説します。
電磁波は、電界と磁界が作用しあって波のように伝わっていく状態をいいます。このページで扱うような健康影響が懸念されるのは「光よりも周波数の低いもの」に対してであり、これあたとえば、携帯電話やGPS、電子レンジなどから出ている極超短波や、無線LAN、衛星放送などのセンチメートル波、あるいは電波時計から出る長波などを指します(下表)。
|
非電離放射線 |
電離放射線 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
種類 |
静電磁界 |
超低周波電磁界 |
中間周波電磁界 |
高周波電磁界 |
光 |
放射線 |
周波数 |
ゼロ |
300Hz以下 |
300Hz~10MHz |
10MHz~3THz(3000GHz) |
3THz~3000THz |
3000THz以上 |
波長 |
なし |
[長] ←←← →→→ [短] | ||||
利用例 |
地磁気 |
電力設備 |
IH調理器 |
電子レンジ |
太陽光 |
レントゲン |
|
対象外 |
電磁波不安の対象 |
対象外 |
もともと電磁波による健康影響の問題は、1979年にWertheimerらによって小児白血病のリスク増加が示されたことが発端のようです[3]。しかし、その後の研究結果の多くはこれを支持するものではなく、再現性の面から疑問視されています。たとえばLoomisら(1999)の研究では、小児白血病リスクについて1979年~1997年に出版された24報に基づき分析していますが、特定スポット(電子レンジ、高圧電線付近)の測定値から推定する方法ではリスク比0.99、95%信頼区間[0.60-1.66]と、統計的に意味のあるリスク増加はみられていません[4]。また、Kheifetsら(2010)の分析によると、2000年以降に発表された症例対照研究のデータにおいて、推定曝露量の多寡、対象地域(ブラジル、ドイツ、日本、タスマニア、イギリス、イタリア)に関わらずリスク増加を支持しない結果でした[5]。
これまで、電磁波による健康影響についてはさまざまな面から疫学的に検討されています。それらを大きくまとめると1)心身の幸福感について、2)発がんリスク、3)神経疾患リスク、4)その他の影響について、に分類できます。
1)心身の幸福感
これまでの疫学研究を統合したメタ分析の結果から、電磁波を頭痛、疲労感、めまい、不快感などの症状の原因とする科学的根拠は乏しいと思われます。電磁波が直接原因となっているのではなく、「電磁波」という語句がもたらす否定的なイメージ(危険、有害など)がこうした症状の遠因になっていると考えられています[6]。
2)発がんリスク
発がんリスクについては、①携帯電話使用による研究と②家電や高圧線付近での影響の研究が行われているようです。まず、①携帯電話使用による発がんリスク増加はないと考えてよいでしょう。「リスク増加がある」とする研究もあるものの[7]、それらは条件を限定した場合のみであったりごく一部にしかリスク増加がみられていなかったりと、十分に再現された結果とはいえないようです。また、一部のデータではむしろ発がんリスクの減少がみられていたり[8]と、一貫性のあるデータでもありません。さらにRepacholiら(2012)のメタ分析[9]では、脳腫瘍の種類別および携帯電話の使用時間別に研究を整理し、どの分析においてもリスク増加はないとしたうえで、髄膜種については携帯電話の短期間使用によってリスクが減るとの結果が示されました(オッズ比0.82、95%信頼区間[0.72-0.94])。この研究では、疫学研究の限界としてリコールバイアスなどのバイアスの介在について考察しており、症例対照研究の場合、盲検の有無は研究の質にあまり寄与しない点を指摘しています。
②家電や高圧線付近での影響の研究についても、多くは否定的な結果のようです。限定的にリスク増加を示唆するデータもありますが[10]、分析基準によるばらつきが大きく再現性があるとはいえません。逆に、前掲のLoomisら(1999)の研究やKheifetsら(2010)の研究など、リスク増加を支持しないとのデータがあります[4-5]。
3)神経疾患リスク
アルツハイマー、パーキンソン、ALSについて、電磁波曝露によるリスク増加はみられていません。たとえばSorahanとMohammed(2014)は、イギリスに住む電力作業員を対象にアルツハイマー病リスク、パーキンソン病リスクを分析し、すべての分析で統計的に有意なリスク増加は検出されず、影響なしと結論付けてます[11]。
4)その他の影響
精子への影響、脳活動、認知機能、睡眠、遺伝子へのダメージなどさまざまな影響が検討されていますが、これまでの研究知見において、リスク増加や電磁波の害は支持されていません。なお、5Gによって免疫が下がるとの説も同様に、これを支持する信頼性の高い科学的根拠は(調べた限り)ありませんでした。
いわゆる電磁波過敏症の症状については、電磁波が流れていることを被験者が認識していない状態(実際には流れている)では症状が出ず、電磁波が流れていることを被験者が認識している状態では症状が出るといった具合に、電磁波に対する否定的な思い込みでもたらされている可能性が指摘されています[6]。「電磁波」をあまり意識せずに過ごすのがよいでしょう。
- Nsoesie,et al. (2020): “COVID-19 Misinformation Spread in Eight Countries: Exponential Growth Modeling Study”, J Med Internet Res, Vol.22, No.12, e24425.
- 山本輝太郎・後藤晶(2020):「実証的な根拠を欠いた情報への評価と科学知識との関係性の検討~新型コロナウイルス関連言説を例として」『情報コミュニケーション学会研究報告』,Vol.17,No.1,pp.13-14.
- Wertheimer & Leeper (1979): “Electrical wiring configurations and childhood cancer”, Am J Epidemiol, Vol.109, pp.273-284.
- Loomis,et al. (1999): "Update of evidence on the association of childhood leukemia and 50/60 Hz magnetic field exposure", J Expo Anal Environ Epidemiol, Vol.9, No.2, pp.99-105.
- Kheifets,et al. (2010): "Pooled analysis of recent studies on magnetic fields and childhood leukaemia", Br J Cancer, Vol.103, No.7, pp.1128-1135.
- Klaps, et al. (2015): “Mobile phone base stations and well-being-A meta-analysis”, Sci Total Environ, Vol.544, pp.24-30.
- Carlberg & Hardell (2017): "Evaluation of Mobile Phone and Cordless Phone Use and Glioma Risk Using the Bradford Hill Viewpoints from 1965 on Association or Causation", Biomed Res Int.
- Kan, et al. (2008): “Cellular phone use and brain tumor: a meta-analysis”, J Neurooncol, Vol.86, No.1, pp.71-78.
- Repacholi, et al. (2012). Systematic review of wireless phone use and brain cancer and other head tumors., Bioelectromagnetics., 33(3):187-206.
- Kheifets,et al. (2008): "Occupational electromagnetic fields and leukemia and brain cancer: an update to two meta-analyses", J Occup Environ Med, Vol.50, No.6,pp.677-688.
- Sorahan & Mohammed. (2014): "Neurodegenerative disease and magnetic field exposure in UK electricity supply workers", Occupational Medicine, Vol.64, pp.454-460.