第6回サイエンスカフェ 2015/6/20(土)
超常現象を信じる心を科学する懐疑論的心理学 -生活の中で科学を語り合う文化-(話題提供:蛭川 立)
明治大学駿河台キャンパス14:00~17:00
心霊スポットも多いロンドンでは、グリニッジ区にあるグリニッジ大学が超能力などの超常現象を研究する超心理学の拠点であり、隣接するルイシャム区にあるロンドン大学ゴールドスミス校は、超常現象を信じるメカニズムを研究する懐疑論的心理学の拠点として、両者は良きライバル関係にある。
今回の話題提供者の蛭川立氏は、2013年にこのロンドン大学ゴールドスミス校の客員研究員として、グリニッジ区で一年間暮らし、専門の研究を進める一方で、地元の酒場で超常現象の信奉を批判的に議論する「懐疑論パブ」に 顔を出したり、昔の天文台を拠点とする天文同好会の会員としても活動した。
そうした体験を報告しつつ、生活の中で「科学」を語り合う文化の可能性を考え てみたい。
(グリニッジ区は古い港と天文台を中心に発展してきた街でありグリニッジ大学はもともと海軍大学だった。)
第6回 開催報告
海事都市・天文台のあるまちグリニッジ
ロンドン都グリニッジ区は、古くはテムズ川に面した港湾都市として栄え、今では古い天文台を中心とした博物館群になっている。 グリニッジの港を見下ろす丘には天文台が作られ、世界各地を航海する船舶のために太陽を観測して標準時(GMT: グリニッジ平均時)を定めていた。またここには経度ゼロ線が引かれ、観光名所にもなっている。天文台は今では天文学と時間の博物館になっている。またフラムスティード天文同好会というアマチュア天文学の同好会の拠点にもなっている。
グリニッジ大学と超心理学・意識研究
グリニッジ大学のデイヴィッド・ルーク講師らのグループは、超心理学、とくにサイケデリックスによる変性意識状態と予知体験との関係を研究している。2015年の国際超心理学会・イギリス心霊研究協会、サイケデリック意識国際会議の年次大会は7月にグリニッジ大学で行われる。
ゴールドスミスの変則的心理学
一方、グリニッジ区に隣接するルイシャム区にあるロンドン大学ゴールドスミス校心理学科変則的心理学研究室(APRU: Anomalistic Psychology Research Unit)では、クリス・フレンチ教授以下、超常的体験を通常の心理学で説明したり、超常現象を信奉する心理の研究が行われている。特別講義にはグリニッジ大のルーク講師なども招かれており、活発な議論の場になっている。 2015年のヨーロッパ懐疑主義会議は9月にゴールドスミスで行われる。 また、グリニッジ区在住のフレンチ教授は、自宅の近所のパブで「グリニッジ懐疑論パブ」を主催している。パブは公共空間で、誰でも自由に出入りでき、また研究会などの場所としても機能している。
超常現象信奉派と懐疑論者という単純な対立図式は過去のものとなりつつある。懐疑論者は厳密な実験超心理学に対してよりも、社会的に有害な疑似科学信奉を批判することに重点を移しつつある。同時に、超心理学実験の結果そのものについての論争が下火になっているのもまた事実である。
陰謀論を信奉する心理も変則的心理学研究室の主要テーマだが、陰謀論は知能の低い中年男性の趣味といった観点から単純に小馬鹿にするのではなく、陰謀論信奉は年齢・性別・教育水準とは無関係であることを実証的に研究する試みが始まっている。興味深いことに、陰謀論信奉はたんにパラノイア的傾向と相関するだけではなく、性格におけるビッグファイブのうち「開放性 openness」のような、一般には好ましいとされる因子とも正の相関を示すことが明らかになってきている。
このことは、たとえば超心理学においてESP実験の結果が外向性と関係するといった知見などのように、超常的とレッテルを貼られて精神異常のように語られてきた体験を、普通の人が誰でも体験しうること、またそれを信じることには何らかの適応的な意味があるといった、肯定的な(少なくとも中立的)な立場から研究できるパラダイムが育ちつつあることを感じさせる。
蛭川研究室– 第6回レジュメより抜粋 –
講師紹介
蛭川 立
明治大学情報コミュニケーション学部准教授 大阪市出身。
京都大学農学部農林生物学科卒業(1991年)
京都大学大学院理学研究科動物学専攻修士課程修了(1993年)
東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程単位取得退学(1996年)
江戸川大学社会学部人間社会学科助教授(2001年)
明治大学情報コミュニケーション学部准教授(2004年~)
明治大学意識情報学研究所代表(2008年~)
京都大学で生物学を、東京大学で人類学を学んだ後、東~南アジア、中~南米などで儀礼・芸能の比較研究を行う。
タイ・チェンマイのワット・ラム・プンで一時出家、アチャン・スパンに師事。進化生物学、深層心理学、構造人類学などの諸分野を横断しつつ、生命・意識・文化にかんする独自の理論を展開している。現在、明治大学情報コミュニケーション学部准教授。
ベゼッハ・ヂ・メネゼス大学付属ブラジル心理生物物理学研究所客員研究員、花園大学国際禅学研究機構オブザーバーなどを歴任。
テルミン奏者、ダイバー、茶人でもある。
主要著書・共著・監修
『精神の星座』、『彼岸の時間』、性・死・快楽の起源』、『サンガジャパンVol.18』、『サンガジャパンVol.17』、『サンガジャパンVol.12』 他