量子論(Quantum Theory)

20世紀初頭に、物質を構成する最小物質である光や電子などについて研究が進んだ段階で判明した物理理論。それまでの物理学と根本的に異なる世界観を提示したので、量子論以前の物理学を古典物理学、量子論を含めた物理学を現代物理学と呼びます。量子論は物理実験の結果を正確に予測することができ(予測性)、レーザー発光装置などに理論が応用されている(応用性)今日、量子論は信頼のおける理論として定評を確立しています。しかし、量子論が描写する実在の解釈は理解が難しく、今でも議論が続いています。だからといって、心の働きなどと結びつける議論が容易に展開できるわけではなく、一部に流行している量子波動(波動)などは、疑似科学に位置づけられます。

量子論は、それまで波と思われていた光が粒子の性質をもつことと、それまで粒子だと思われていた電子が波の性質をもつことが判明したことに端緒を発しています。量子論によって、万物の最小物質は皆、波の性質と粒子の性質を兼ね備えている量子と判明した、と説明されました。しかし、波であり、かつ粒子であるものは、とても想像できない奇妙な物質になってしまいます。量子論の描像を理解するためには、もう少し正確な事情を知っておくとよいでしょう。

量子論では、観測という行為が重要で、量子を観測する前は波の性質をもち、観測した直後は粒子の性質をもちます。この波は「確率の波」であり、位置や速度などの物理量に付随して広がっています。この波の振幅が観測される確率に相当し、観測した直後の粒子の挙動を正確な確率で予測します。また、観測をしない間は波であるため、干渉を起こして確率が変化します。その干渉を積極的に利用しようとするのが、量子コンピュータです。ある特定の問題については、超高速で解けることが知られています。

量子論で「確率の波」は虚数iを使って表現されます。これは波の干渉の計算に便利なために導入されたものです。だから「量子論がこの世に虚の次元が存在するということを示した」などという、オカルトじみた表現は不適当です。「確率の波」自体の直接の観測はできませんが、それが存在するとして計算すれば、将来の観測が(確率的に)予測できるし、干渉によってその確率を変えることもできるのです。その意味で、「確率の波」は実在すると見るのが適当です。

量子論で大きなミステリーは「観測とは何か」です。何が、確率の波の状態から粒子状態に変化させるのかが、よくわかっていません。量子論の数式というモデルは非常によく検証されて、現に使えているのですが、それがどのように現実と対応しているのかがまだ不明瞭なのです。「人間の意識が観測に相当する」などの超常的な解釈も提案されていますが、もしそうならば、どのような理論的な体系性が成立するか、どのような観測データが予測(予測性)できるかまでが主張されなければ、SFのような疑似科学になってしまいます。