認知的不協和(Cognitive Dissonance)

社会心理学のレオン・フェスティンガーが、記憶の改ざん(目撃証言)が起きる典型的な心理状態として提唱したもので、人間の行動を説明するうえで強力な理論として高く評価されています。

彼の実験では、面倒な仕事をさせた人にバカにしたような少額の報酬を払うと、後から仕事の印象記憶が「有益だった」などと変化している人がいることが見つかりました(相応の高い報酬を払った人は皆「面倒だった」などと妥当な報告をした)。これは、「面倒な仕事」なのに「少額の報酬」という構図が、憤りをひき起こすような認知的不協和になり、それを解消しようとする記憶の変化だと説明できます。「少額の報酬」という外的な事実は「高額の報酬」に記憶変化しにくいのですが、「面倒な仕事」という内的な印象は容易に「有益な仕事」に変化させられるのです。

また、高額のお守りを買ったときにも認知的不協和はよく起き、それが疑似科学信奉の原因のひとつになっています。「高額のお守りを買った」のに「効き目が定かでない」というときに、認知的不協和によって「絶対効くはずだ」と、確証バイアスを起こしたり、他の人に同じお守りを薦めて、効いたという事実を集めようとしたりする傾向が、人間にはあるのです。