境界設定問題(Demarcation Problem)
境界設定問題とは、科学哲学分野でよく知られている概念で、平易にいうと、科学と疑似科学の間にどのように「線を引く」か(どこからが科学で、どこからが疑似科学なのか)ということについての問題を指します。「線引き問題」などとも呼称されます。この問題は科学史や科学哲学の分野で盛んに議論されてきましたが、現在までのところ、明確な解答は得られておらず、むしろ「画一した線を引くのは難しい」との見解に至っています。
一例ですが、頭の禿げあがった人を判別する方法を考えてみるとわかりやすいでしょう(エウブリデスのパラドックス)。髪の毛が何本以上生えていたら「禿げじゃなく」、何本以下だったら「禿げである」という明確な基準が、果たしてあるのでしょうか。また、我々はそうした明確な基準を基に判断しているのでしょうか。
「科学」と「疑似科学」の間も同様で、たとえば、科学である要件として「○○回以上の実験で成功した」や「○○人以上の被験者が必要である」といった基準を設けても、それらの数字は分野によって異なるでしょう。一つの考え方としてカール・ポパーの「反証可能性」が提示されてはいますが、これだけで厳密に線を引けるとも多くの科学者は考えていません。 要するに、多くの「科学」は非常に複雑なさまざまな要素を備えており、科学と疑似科学の間には、どちらともいえない膨大なグレーゾーンが広がっているのです。「科学」か「疑似科学」かは画一的な見方ではなく、多面的な評価によって判別されるもの(実際にそうされてきた)であるといえるでしょう。
このように、科学であるかどうかの線引きは専門家にとっても悩ましい問題で、科学哲学上の課題でもあります。ただし、個々人がこういった問題を意識し、考えていくことには一定の意義があります。物理学や化学などの“わかりやすい”科学以外にも、現代社会には多くの“科学とされるもの”があり、個人としてそれらとどのように付き合っていくかは、社会の中で生きる私たちにとって必要な選択なのです。
なお、本評定サイトの10条件による評定は、明確な境界は引けなくとも、おおよその判定は可能であることを示すための試みです。境界設定問題に関する、グレーゾーンに位置する「科学」については、「評定の基本的な考え方」や「評定の出典」などを参照してください。