プラシーボ効果(Placebo Effect)

化学的に何の薬効もない偽薬であっても、それを受け取った患者が「この薬はよく効く」と信じて飲むことによって症状が改善することがあります。これを「プラシーボ効果(あるいは偽薬効果)」といいます。

たとえ砂糖玉であっても、それを風邪薬と思い込むことによって多くの症状は改善し得るでしょうし、また、「ニンニクを食べて元気になった」「お茶を飲んで気分が落ち着いた」などの日ごろよく聞く「慣用句」においても、プラシーボ効果である部分がかなり含まれていると推察されます。

ある健康効果において、それが薬による「真」の効果なのか、プラシーボ効果なのかを判別することは科学研究として重要です。というのも、その識別がつかなければ、多くの医療が立ち行かなくなってしまうからです。

疑似科学の分野では、民間医療や補完代替医療の領域と特に結びつきやすく、ニセ医学の多くもプラシーボ効果に頼っていることが指摘されています。そこで西洋医学を基にする通常医学においては、プラシーボ効果を極力排除するために二重盲検法といった研究法を編み出し、工夫を凝らしています。「その薬自体に効果がある」と主張するためには、少なくともいくつかの検証過程を経ることが必要なのです。

よくある誤解の一つに、「プラシーボ効果はただの思い込みなので、実際には体調はよくなっていない」というものがありますが、これは正確ではありません。プラシーボ効果だとしても「症状」は軽くなりますし、「体調」もよくなります。

人の症状はたいへん微妙なものです。同じ病気に罹っても、敏感な人は少しの症状でもつらく感じるでしょうが、反対にあまり気にならない人もいるでしょう。医学的な所見においてまったく同じ異常が見つかった場合にも、表れる症状は人によって(微妙に)違いますし、また、「つらさ」の程度も異なります。つまり、生理学的には何の変化がなかったとしても、主観的な「体調」や「症状」はごく簡単に変化しうるのです。

人の「思い込み」の効果は侮れず、たとえば想像妊娠などにおいても身体的な変化が表れます。いわゆるストレスなどが体調に悪影響を及ぼすことももはや周知のことであり、たとえ偽薬による思い込みだとしても「病気が治る」という事実は、一方ではあるといえます。

こうした意味では、薬の「真の効果」だけが治療に影響を及ぼすともいえないでしょうが、それでもニセ医学が問題となるのは費用対効果という面が残るからです。多くのニセ医学では患者に対して過度な期待を抱かせるような文言を並べますが、効果の正体がプラシーボだとすると、費用との均衡がとれていないということが指摘できます。

また、偽薬に有効成分は含まれていないので、期待できる効果は“最大で”プラシーボです。有効成分が含まれている薬においてもプラシーボ効果は同様にあるため、真の薬を上回る偽薬の効果については懐疑的にならざるを得ません。

プラシーボ効果については、「同じように治るのならば副作用のない偽薬のほうがよい」や「安価な偽薬ならば目くじらを立てる必要はない」といった極端な意見も聞かれますが、これは誤解に基づく誤った見解です。前者については、患者が偽薬だと知ってしまうと「思い込み」は発生せず、そもそもプラシーボ効果とならないという観点が、後者では、より有効であるはずの真の薬が使われなくなり、社会的に問題といえる事態を招くという視点がそれぞれ欠けています。

プラシーボ効果を有意義に使うという考え自体は医療の中で否定できませんが、かといってニセ医学が肯定されるわけではないということも、重ねて考慮する必要があるでしょう。プラシーボ効果を盾に取ったところで、ニセ医学の地位が向上するわけではないのです。