フードファディズム(Food Faddism)

フードファディズム(food faddism)とは、食物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価・信奉する態度のことをいいます。たとえば、「これさえ食べれば健康である」という論の多くはフードファディズムであり、近年のいわゆる健康食品ブームの背景にある思想にも、このような傾向がよく見受けられます。

フードファディズムが問題視される一つの理由に、食品や栄養などの「広告的な意味」が誇大化していることがあげられます。主に、科学的な根拠に対する理解の薄い(あるいはあえて扇情的に報じる)マスメディアによって、本来ありもしない健康効果を消費者に信じ込ませています。これは、単なるメディアリテラシーの問題に留まらない「科学」と「社会」の問題ともいえるでしょう。

食品業界、特にいわゆる健康食品を扱う業者はとかく我田引水になりがちです。自社製品を売り込むために、ときには度が過ぎた「広告」をあみだしています。いわゆる健康食品(サプリメント機能性表示食品など)の一部では、それが「食品」であるにもかかわらず、「医薬品」と同等以上の効果があるように印象付けることすらあります。この食品“さえ”食べれば健康になったり、病気が治るといったことは常識的には考えにくいのですが、あたかもそのような効果があるように錯覚させられてしまうのです。

また、宣伝広告としてのインパクトを重視しすぎるあまり、過去の主張と整合性がとれない事態すら招いています。最近だと、コラーゲン健康製品の販売会社が最新の自社製品を宣伝するにあたり「これまでのコラーゲンには効果がなかった!でも、この○○(最新の製品)には効果があります!」という趣旨の広告を打つことがありました。では、今までこの会社で販売していた製品は何だったのでしょうか。

フードファディズムという概念・語句を日本に紹介したのは群馬大学名誉教授の高橋久仁子氏だといわれています。氏はフードファディズムや食と健康に関する研究でよく知られており、それに関連して、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品について次のように指摘しています。

  • 「トクホは医薬品ではなく食品ですから「効果」が小さいのは当然です。その小ささが消費者に伝えられていないことが大きな問題です。「厳重な審査を経て許可」されたはずのトクホでさえ「効果」、すなわち「機能性」はわずかです。「食品」とはそういうものなのですから、食品成分に対する「機能性幻想」は持たない方がいいのです。」(高橋久仁子,食情報とフードファディズム~その根っこにニセ科学~,RikaTan理科の探検,2016,通巻19号,p79)

以上のように現在の食品業界(健康食品業界)では、「体に良い」食べ物であることをとにかく強調することが多いようです。この傾向自体は、昨今の生活習慣病予防を念頭に置いた健康ブーム(政策)、また、医療技術の進歩による人々の健康長寿への渇求という潮流にあっては致し方ないことともいえるでしょう。代表的な先進国の一つである日本では、食品における豊かさの指標が「おいしさ」から「健康的である」ことに変化しているのかもしれません。

しかし、このように社会が成熟することによって付随する問題も顕在化してきています。その一つがフードファディズムであり、今後、積極的に探究されるべき課題といえるでしょう。