メタ分析の読み方

メタ分析では統計的な解析に伴って、さまざまな専門的な概念が登場します。ここでは、メタ分析を正しく読むために必要ないくつかの用語を説明します。

効果量

効果量(effect size)とは、母集団における効果の大きさのことです。効果量に該当する概念としては「標準化した平均値の差(standard mean difference)」「オッズ比(リスク比)」「相関係数」などが代表です。たとえば、標準化した平均値差は、(群1の平均)-(群2の平均)/全体の標準偏差によって求めることができます。

 

相対リスク(リスク比:RR)

相対リスクとは、ある要因にばく露(ある疾患に罹患する可能性のある要因に晒される)することによって、ばく露がない場合と比較して、リスクが何倍になるかを示す指標です。
2つの集団(ばく露群、非ばく露群)の比較をもとに、片方の集団にいることが、もう片方の集団にいることよりも危険が何倍になるかを算定することができます。「喫煙者は、非喫煙者に比べて肺がんリスクが○○倍となるから怖い」といった表現の基礎になる数値です。ただし、たとえば、「35歳以上の肺がんによる死亡率は、人口10万人に対して、喫煙者95.0、非喫煙者9.0である」といった標準化されたデータがないと計算できません。

相対リスクの計算式

  • 相対リスク(RR)=ばく露群の発生率÷非ばく露群の発生率

オッズ比

まずオッズとは、ある事象が起きる確率(p)と、その事象が起きない確率(1-p)の比をいいます。オッズ比とは、この2つのオッズの比のことです。症例対照研究など、相対リスクを算出できない場合に有効な考え方です。下の表1を見てください。

表1 分析に必要なデータ(例:喫煙―肺がん)
要因
喫煙あり喫煙なし
病気肺がんあり163人137人
肺がんなし89人211人

表1は、症例対照研究によって喫煙による肺がんリスクを調査する場合に、最終的な分析に必要な項目を表しています。「喫煙あり/肺がんあり」「喫煙あり/肺がんなし」「喫煙なし/肺がんあり」「喫煙なし/肺がんなし」の四つのデータが分析に必要です。
この場合、たとえば肺がん者中の喫煙者と非喫煙者の割合の比(54%:46%)などを算出してみても何の成果も得られません。そこで、オッズ比によるリスク推定が行われます。

表1より

  • オッズ比(OR)=(163÷137)÷(89÷211)=2.82

オッズ比が1以上なので「喫煙によって肺がんのリスクは高まるだろう」と推定することができます。逆にオッズ比が1未満であれば、「喫煙によって肺がんのリスクは減るだろう」と推定します。
ここで注意しなければならないのは、この結果をもって「喫煙によって肺がんリスクが2.82倍になる」とはいえないということです。オッズ比は単なるオッズの比に過ぎず、相対リスク(RR)のように直接リスクを推定しているのではありません。オッズ比とは、ある事象の傾向を表しているに過ぎないということを理解しましょう。「喫煙によって肺がんリスクは○○倍になる」と推定したい場合は、相対リスク(RR)を用います。ただし、疾病の発症率が低い場合、オッズ比(OR)をリスク比(RR)の近似値とみなすこともあります。なお、ここでは具体例を用いましたが、一般的には以下の表2に当てはめた事例で計算できます。

表2 症例対照研究の考え方
要因
ありなし
結果症例群AB
対照群CD

表2より

  • オッズ比(OR)=(A÷B)/(C÷D)

95%信頼区間

95%信頼区間を理解する前に、まず「区間推定」という考え方を学ぶ必要があります。
推測統計学では、ある集団全体の性質をサンプル抽出によって推定します。たとえば、日本中にあるピーマンの大きさの平均値を求める場合、本来であれば日本中すべてのピーマンの大きさを測定して平均値を計算する必要があります。しかし、実際にこれを行うのはかなり困難です。そこで、無作為抽出によっていくつかのピーマンを抽出し、その平均値から全体の平均値を推定します。このとき、一度の抽出では必ずしも全体の平均値になるとは限らず、誤差が出ます。この誤差の範囲を表したのが「区間推定」です。
区間推定では母集団の特性値の範囲の推定を行うのですが、この考え方に加えて、推定した範囲の信頼性を表したものが「○○%信頼区間」となります。たとえば「95%信頼区間」といった場合、「ある母集団からサンプルを取ってきて、そのサンプルの平均から95%信頼区間を求める、という作業を100回やったときに、95回はその区間の中に母平均が含まれる」という意味になります。このとき、「一度の測定で求めた区間の中に95%の確率で母平均が含まれる」という意味と誤解しないように注意しましょう。真の母平均の値は1つなので、誤差範囲が生じるのはサンプル抽出によるものなのです。