メンタリズム(Mentalism)

メンタリズム(Mentalism)とは、予知やテレパシー、交霊などの精神的(mental)な不思議現象をひきおこすテクニックのことで、占い師や霊能者の用いる手法に起源があります。しかし、今日の奇術界ではメンタルマジックの別称となっています。松田道弘『メンタルマジック事典』(東京堂出版、1997年)のメンタルマジックの項目には、「奇術の分野のひとつ。サイキック・フォースを使用したとみせかけながら実はトリックを用いて観客を不思議がらせるショウ。メンタリズムとほぼ同義」(86ページ)と書かれています。ここでいうサイキック・フォースとは超能力のことですから、メンタルマジックやメンタリズムは「超能力マジック」とも言いかえられるでしょう。

つまり、テレビ番組で放映されるメンタリズムの現象は、奇術の演出にすぎません。「人間の心を読む」といっても、透視のような超能力でも、何らかの心理技法でもありません。一般に表情を読むことで、人間の感情変化を多少知ることができますが、それ以上に確実な「心を読む技法」は開発されてはいません。メンタリズムが本当の超能力であるとか、百発百中の心理技法であるとかの誤解が一部にあるようですが、テレビ局などのメディアが視聴者をまどわした結果なのです。

メンタリズム(Mentalism)とは、予知やテレパシー、交霊などの精神的(mental)な不思議現象をひきおこすテクニックのことで、占い師や霊能者の用いる手法に起源があります。しかし、今日の奇術界ではメンタルマジックの別称となっています。松田道弘『メンタルマジック事典』(東京堂出版、1997年)のメンタルマジックの項目には、「奇術の分野のひとつ。サイキック・フォースを使用したとみせかけながら実はトリックを用いて観客を不思議がらせるショウ。メンタリズムとほぼ同義」(86ページ)と書かれています。ここでいうサイキック・フォースとは超能力のことですから、メンタルマジックやメンタリズムは「超能力マジック」とも言いかえられるでしょう。

つまり、テレビ番組で放映されるメンタリズムの現象は、奇術の演出にすぎません。「人間の心を読む」といっても、透視のような超能力でも、何らかの心理技法でもありません。一般に表情を読むことで、人間の感情変化を多少知ることができますが、それ以上に確実な「心を読む技法」は開発されてはいません。メンタリズムが本当の超能力であるとか、百発百中の心理技法であるとかの誤解が一部にあるようですが、テレビ局などのメディアが視聴者をあざむいた結果なのです。

典型的なメンタリズム現象(つまりメンタルマジック)を紹介しましょう。

「5から50までで好きな数字を言ってくださいね。13のような小さな数でもいいですし、36とか48とかの大きな数でもいいですよ」とお願いします。 すると、回答はふつう25、27、29あたりになります。これは、例に出された数字でないものをなるべく選ぼうとする心理が、回答者に働くからです。そこであらかじめ、25と書いた紙をテーブルの下に入れ、27と書いた紙をポケットに入れ、29と書いた紙を壁に貼っておき、回答者の応答によって「あなたの回答はすでに予言してあったのですよ」と言いながら、該当の紙を取り出して見せます。こうすると、かなり不思議な予言現象にみえる奇術を演じたことになります。

もし回答者が、期待した回答(25、27、29)をしなかった場合は、数字を使った別なパフォーマンスに即座に切り替えます。たとえば、32と回答されてしまったならば、「これから縦横斜めの平均がいずれも32となる5×5の魔法陣を作りますね」と言って図1を書けばよいのです。回答者は、回答した数字を用いてすぐに魔法陣を作る実演だと思ってくれます。

この5×5の魔法陣の作り方は、三田皓司『メンタルマジック』(東京堂出版、1997年)の125ページに書かれています。なお、13未満の数(たとえば7)を回答された場合は、小さすぎて5×5の魔法陣は作れないので、いったん図2のような3×3の魔法陣を書いてから、「これだと単純すぎますね。もっと大きい別の数を言ってください」とお願いし、次に指定された数で5×5の魔法陣を作ればよいのです。

表1 5×5
3643202734
4224263335
2325323941
2931384022
3037442128
表2 3×3
1038
579
6114

このような、あらかじめ想定していた回答以外の回答をされた場合の「逃げの手順」を、奇術の専門用語で「アウト」と呼びます。奇術の実演では、いかにアウトを首尾よく用意しておくかが、メンタリズム現象の不思議さを維持する重要なポイントになるのです。

この点、テレビ番組のメンタリズムのショウの場合は楽です。もし、想定していた回答以外の回答がなされた場合、撮り直しができるからです。現在では、テレビ局が芸能人とともに、メンタリスト(メンタリズムを演じる奇術師)を助け、撮り直し以外にも、芸能人をサクラにする、タネがわからないように映像編集するなどの方法で、視聴者をあざむく演出が横行しています。

こうした事態におちいった背後には、つぎの事情があります。「これから超能力マジックをします」と言って奇術師が出てきて実演した場合、「どうせタネのある手品なのだ」と思われ、魅力が半減してしまうのです。ところが、「これからメンタリズムをします」と言って超能力者らしき人が登場して実演した場合、「これは手品なのか、それとも本当の超能力なのか」と議論を呼ぶのです。つまり、視聴率がかせげるということです。

前掲の『メンタルマジック事典』の巻末191ページには、奇術師のまもるべき倫理として「メンタルマジックが生まれつきもっている危険性に留意せよ。自分を超能力者であるといってはいけない」と警鐘が鳴らされています。それに反してテレビ局では、「超魔術」「サイキック・エンターテイメント」「メンタリズム」と次々用語を変えながら、特殊能力としての演出を行っているのです。

松田道弘は、『超能力マジックの世界』(筑摩書房、1993年)の195ページで、「科学でまだその存在が認知されてもいない未知の力“超能力”を、あたかも存在するかのように大宣伝して聴視者に誤解を与えるようなテレビ局の製作方針には問題と危険性が充満しています。“超能力”を主調とする娯楽番組をシリーズ化するのは非常に困難です。スタッフの要請で毎回演出と表現がより刺激的に、より煽情的にエスカレートしていくからです」と指摘しています。その指摘から20年以上が経過した今日、まさにその指摘通りにことが進み、視聴者をあざむいてきたテレビ局は、深刻な信用低下を自らもたらしたと言えます。

ただしメンタリズムは、学術面において注目されています。人間がどのような現象に不思議さを感じるかなどの、認知研究に役立つからです。事実、心理学者のレイ・ハイマン(オレゴン大学)や、社会心理学者のダリル・ベム(コーネル大学)は、研究者であると同時に奇術師でもあり、メンタリスト協会のメンバーになっています(石川幹人『超心理学~封印された超常現象の科学』、紀伊國屋書店、2012年、120ページ)。

最後に手軽にメンタルマジックが演じられる文庫本を紹介しましょう。泡坂妻夫『しあわせの書~迷探偵ヨギガンジーの心霊術』(新潮文庫、1987年)を手に入れれば、それを使って、相手が適当に選んだ語句を(アウトなしに)確実に当てられます。ぜひ試みてください。