喫煙のリスク(Risk)

喫煙が健康に及ぼす影響については多くの研究があります。まず、タバコには有害と判明している化学物質が200種類、その中で発がん性物質が40~60種類含まれており、これらによる人体への影響が懸念されます。また、喫煙によって一酸化炭素が体内に取り込まれるため、酸素欠乏による動脈硬化作用なども大きな危険の一つです(注1)。

リスクという面に目を向けると、喫煙者の男性(1日20本以上)は、非喫煙者の男性に比べ、肺がんによる死亡率が4.5倍となることが分かっています。女性の喫煙については、心筋梗塞による女性の死亡率が、喫煙者が非喫煙者の4.5倍となるといわれています。さらに、受動喫煙についても深刻な影響が懸念されます。夫が喫煙者であり、妻が非喫煙者の場合、その女性は、非喫煙者の男性を夫に持つ場合より1.9倍肺がんを起こしやすくなることが示されているのです(注1)。

喫煙については他にも、金銭的、経済的な影響(ニコチンへの依存による)や、周りの人を喫煙者にしやすくなるという副次的なリスクも抱えており、多くの医療機関などで警鐘が鳴らされています(注2)。

喫煙におけるリスクは社会的な関心の高いものであり、これまでもたびたび強調されてきましたが、他にも、多くの物事において「リスク」はつきものです。株式投資のリスク、原子力発電のリスク、発がんのリスク……、身近なところでは、高いところで作業するリスク、車を運転するリスクなど、社会生活を送るうえで「リスク」は常に隣接しているのです。

科学的なものの見方では、「シロかクロか」といった二者択一ではなく、どの程度のリスクがあるかを見積もり、他の選択肢とコストやリスクを含めた総利益の比較をすることが大切です。こういった利益比較に際しては、問題に応じたさまざまな条件を加味したうえでの判断が必要なのですが、それゆえに、一様な回答が出しにくい問題も多く出現します。東日本大震災における福島原子力発電所についての一連の事故などが、この問題を如実に表しているといえるでしょう。

「何が」「自分にとって」「意味ある情報」なのかを比較検討することは簡単ではないため、「リスクを推し測る」ことはヒトの認知機能において大変難しい作業だといえます。しかし、リスクの理解を進めていくことは、科学と社会との関わりを考えていくうえでも重要な要素といえるでしょう。
注1 国立循環器病研究センター
(国立循環器病研究センター)
注2 厚生労働省のTOBACCO or HEALTH 最新タバコ情報
(厚生労働省のTOBACCO or HEALTH 最新タバコ情報)